玉川上水散歩、感動のゴール編
オランウータン日誌です、こんにちは。
サイクリングでもマラソンでも山登りでもなく、延々街を歩くだけの「散歩」。
暇つぶしと紙一重な印象は否めないのだけれど、わざわざ友だちと誘い合わせて行く価値は充分あったと思ってて、玉川上水沿い約35キロの道中、4人のメンバーは思い思いに話をしながら(あるいは話をせずに)歩く。
テーブル越しに向き合っていてももちろん話はできるし、むしろそっちのほうが落ち着いて話せるのかもしれないのだけれど、差し向かいの場は、気心の知れた友だち同士でも心理的なプレッシャーは大きくて、変な間や沈黙が時に気づまりなことがある。
約10時間もの散歩あいだ、気まずい気持ちになることなく過ごせたのは、一緒に出かけたメンバーが超仲良しで話が尽きなかったからというわけではたぶんなくって(別に仲良しであることを否定するつもりはないのだが)、
「玉川上水の最後まで行く」という一応は共通の目的があったこと、
「横並びあるいは縦1列で歩きながら」という、話をすることへのプレッシャーが小さい状況だったこと、
「景色の変化」という会話以外の逃げ道が用意されていたこと
などは大きな要因なんじゃないか。
楽しかった散歩の、「気まずくなかった理由」をクドクド考えるのは我ながらおかしいのだけれど、10時間という決して短くない時間を一緒に楽しく過ごせる状況を作れる「散歩」は、――年寄りじみたアクティビティではあるけれど、素晴らしい。
いつしか生まれる一体感
お昼ごはんの休憩が終わった時点で雨が降り始めて、まだ先は長いのに先行きは不安。日の短い時分なので5時ごろには真っ暗。目標の6時に、きちんと目的地にたどり着けるのか危ぶまれてくる。しかも、ふだんから運動好きなわけでもないメンバーたち、みんなもう足パンパン。
「エベレストってさ、夕方4時以降は絶対に登っちゃいけないんだって。
でも、こないだ観た映画で、もうちょっとで登頂できるんだからって、4時過ぎても降りてこない奴がいて、そいつは吹雪にのまれて死んじゃったんだよ」
今回のお散歩の女リーダー、ここはエベレストではなく東京の玉川上水なのだが、踏破の断念を示唆し始める。
――でも、でもせっかくここまで来たんだ! 最後まで歩きたい!
歩を早めるメンバー。
――このペースで行けば、6時半には着くみたいです!
iphoneで所要時間を計算する別のメンバー。とにかく先を急ぐ。
着くかなぁ、なんて話をしながら歩いていると、信号待ちでこちらに話しかけてくる老人。
「三鷹駅なら、ここをずーっとまっすぐ行って20分くらいだよ!」
またも現れてた親切な名もなき村人(夕方のウォーキング中のおじいちゃん)! 勇気づけられたメンバーは、上水沿いの、電灯もないような真っ暗闇へも踏み込んでいく。
三鷹駅を越え、井之頭公園を横目にみながら閑静で高級な住宅街を抜けると、もうゴール地点は目前だ。けど、目標時間の6時30分に着くかは微妙なライン。
6時30分に間に合わなかったからと言って、別段なんの問題もないし、なし崩し的に決まった時間であるにもかかわらず、4人のメンバー全員急ぎ足になる。もう最後の2、3キロは半ば小走りだ。
残り5分。
ユーチューブで「負けないで」を流すメンバー。
曲が終わってもゴールできず、続いて「サライ」を流す。
この曲が終わるまでには! ラストスパートをかけるメンバーたち。
曲が終わるころ、ふと橋のところで、遊歩道が途切れる。
――あれ? ここで終わり?
ゴールテープや紙吹雪を期待していたわけではもちろんないけれど、「これより先、玉川上水暗渠に」という旨の看板すらなく、あっけなく終わる遊歩道。
延々と歩いているうちに、むやみやたらにテンションが上がっていた僕たちメンバーの方がおかしくって、そりゃあ住宅街の仲にある用水路なのだから、必要以上の観光地的な設備が整っているわけがない。
それでも、興奮冷めやらぬメンバーは、お互いの健闘を讃え合って、マフラーをゴールテープに見立てて感動のゴールごっこを始める。自分たちで勝手にそういうセレモニーごっこをしたくなるほどに熱く、楽しい散歩の旅だった。
嫁がカレー用意してくれたみたいだから、と帰っていったメンバーとの別れを惜しみつつ、久我山駅前の焼き肉屋でおなかいっぱい食べてからそれぞれ帰って、長い一日は終わった。
以上、オランウータン日誌がお届けしました。