マキヒロチの「明太フランス」と角田光代の「明太フレンチ」――生きる糧となるごはんの記憶
けっこう漫画も読みます、オランウータン日誌です、こんにちは。
『いつかティファニーで朝食を』の「明太フランス」
いつかティファニーで朝食を 8 (BUNCH COMICS)
- 作者: マキヒロチ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/11/09
- メディア: コミック
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この週末に、先週発売された『いつかティファニーで朝食を』8巻を読む。
僕たち夫婦は、休みの日の朝に早起きをしてサイクリングがてら朝食を食べに出かけるのが好きなので、行く店候補を探しがてら読んでいる。
正直に言って、ストーリーの方は、32歳独身(彼氏ナシ)の会社員、麻里子の恋やら仕事やら人生やらの悩みに付き合うのがちょっぴりかったるい。
毎回、おいしい朝食を食べるすばらしさを感じて、そのことによって恋やら仕事やら人生やらの悩みが少しだけ打開、すっきり着地! ……するんだけど、結局麻里子は周囲の状況に流されて、右往左往、あっちにフラフラこっちにフラフラしている。
結局、何も変わってないような……。
と、僕は感じてるんだけど、それはそれとして、8巻は、「明太フランス」というパンを、駅のホームのベンチで食べるシーンがあって、過去に読んだ本の記憶と重なったこともあって、その話はよかった。
恋人と別れて疲れている麻里子を、菅谷は朝食に誘う。
「何で急にパンなの~!?」
「だって麻里子さん 朝ごはん食べると元気になるじゃないですか」
あったかいうちに食べたほうがおいしいからと、駅のホームでパンを食べる二人。
――おいおい、と読みながら思いつつも、旅先でという状況での、仲のいい同僚同士という二人の関係を考えてみると、ありえそうだ。しかも、かなり楽しそう。
出張から帰って、残っていたパンを食べながら麻里子は思う。
リュックに詰まって少し固くなったパンに助けられる朝もある
角田光代『ちいさな幸福』の「明太フレンチ」
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/12
- メディア: 文庫
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『いつかティファニーで朝食を』も、これはこれでいい話なんだけど、僕が「明太フレンチ」を過去に角田光代の作品で読んだことがあって、しかも感動したという、もとからの思い入れによるバイアスもありそう。
おっとりしておとなしそうな雰囲気の20代中盤の高野京子は、20歳年上の妻子持ちの男と不倫をしていた。その男との食事は外で済ませることばかりで「食事であってごはんじゃない」という感じ。
だが、一度だけ、何でもない日曜日の午後に、近所の公園で、「明太フレンチ」を一緒に食べたことがある。そして、その瞬間こそが、自分の人生における最高の瞬間だと感じているのだという。
今この瞬間が、ことり公園でこの人とふつうの恋人同士みたいにパンを食べている今の時間が、自分の人生のなかの、最高に最高なときなのかなーって。あとはずっと、下り坂なのかもなって。たぶん、彼は過程を捨てないんだろうし、私たちは早晩だめになる、これから起きるだろうそういうこと全部、だけど今日一日があるから平気で乗り切れるだろうって
非日常の朝ごはんの記憶が生きる糧となりうる
普段の生活の中で、安定した関係の相手と食べる朝食も、もちろん愛おしいもので、それはそれで、間違いなく僕の体の記憶として僕の一部になるに違いないんだけど、こういう、非日常のテンションの高さの中で食べる「ごはん」も、かけがえのないものとして、僕たちの人生の支えとなりうる。
折しも今週は、ハネムーンに行ってからちょうど1年で、去年のこの時期、バリ島の東端の山中で、アグン山に昇る朝日を待ちながら、まだ薄暗い中を甘いコーヒーとサンドイッチの朝食を食べたのだった。そういう経験は、きっと、いつも覚えているものじゃなくても一生忘れはしなくって、僕たちが生きる糧になっているに違いない。
以上、オランウータン日誌がお届けしました。