オランウータン日誌

保育士をしています。本と落語と自転車が好きです。

田澤里喜『あそびの中で子どもは育つ』を読む

最近の保育は総力戦だ。

発達に即している、という理由でおもちゃを保育環境として用意するだけではなく、本来、子どものおもちゃではないようなものまで、保育の中に取りいれることが、保育の充実につながる。もちろん、単に大人向けのものを横流しすればいいわけではなく、子どもの姿をよく観察して、興味関心や子どもの力量に合わせたものを、既成概念にとらわれずに保育の環境にしていく必要があるということだ。

モノに限った話ではない。子どもが神社ごっこに興味があれば、実際に神社に足を運ぶし、大工の保護者に鳥居を作ってもらったりする。ファッションショーごっこが盛り上がっていたら、実際に観にいきもする。保育は、保育園の中にはとどまらないのだ。

なんてエキサイティングなんだ!保育!『あそびの中で子どもは育つ』は、そんなことを感じさせる本。

とはいえ、そんなエキサイティングな実践を行うのは容易ではない。そこで働く保育者の高い専門性と熱意があればこそである。

子どもたちの様子をあたたかく見守る、話を聞く、共感する、状況を見極めながら遊びが発展するような提案をする……。言うは易しだが、たくさんの子ども一人ひとりの発達や関係性を見極めた上で遊ぶことは、熟達した専門職でなければできないことだ。

そうして、遊びは、子どもにとっては遊びとして完結していればそれで充分なのだが、専門職集団としての保育者は、目には見えない子どもの育ちや学びを可視化することも求められている。子どもが自分たちで遊べるように環境を整えるコーディネーターであり、育ちや学びを保護者に伝えるインタープリターでもあるのだ。

優れた実践を知ったからといって、すぐに真似ができるわけではない。先人の工夫したこと、考えたことを参考にしながら、自分たちの目の前にいる小さな人たちに適した実践を模索していくのみである。