恋の始まりのキラキラを、もっと聞きたかった
かわいい女性と話をする。
過去に、好きでもない人と付き合って、その時いかに不毛な時間を過ごしたかを楽しげに話してくれて、盛り上がる。
――ほんと、ギャラを払ってほしいと思ってた。移動時間も含めて、拘束時間に対して時給1000円はもらいたい!
会ってる時だってさ、いっつも私の方が笑わせる係みたいになるしさ。あれはギブ&テイクが成立してなかった。
そんな意味合いのことをさらっと話す。
ギャラとか、ギブ&テイクとか、全然恋愛関係において使う言葉じゃないじゃん。そうかぁ、女の子は好きでもない男にはそんなことを思うのかぁ。ひどいなぁ。
――でも、好きじゃない人と付き合っちゃったからだよ。
今、付き合ってるとかじゃないんだけど、一緒に遊びに行く人がいてね、その人と会っている時は、ぜんぜんそんなこと思わない。楽しい。
彼女が降りる駅はまだ先で、聞こうと思えば、「え、それどんな人なの?」とか聞けたんだろうけど、そうはできずに、僕の過去の恋愛の話題を振って、そうこうしているうちに彼女が電車を降りる。
このときのやり取りがなんだか引っかかって、家に帰って思い返してみた。
恋の始まりは誰にとっても楽しいことで、だから、本当は一緒にいて楽しい人の話を、もっと突っ込んで聞くべきだった。きっと、話す方も楽しいし、僕としても気になる話題。
そうしなかったのは、一つにはかわいい女性の恋愛事情を深く聞いていいものか、という遠慮が働いたのもある。
でもそれ以上に、一緒にいて楽しいと話す彼女の様子が、話しているだけでとても楽しそうで、キラキラがこちらにまで伝わってきて、まぶしかったんだと思う。
恋の始まりは楽しくって、そういえば最近そういうキラキラに触れていなかったし、もう僕は結婚してるから、この先そういうキラキラした体験をすることはないのだろう(この先きらきらしようと思ってもゲスゲスするだけだ)。そういうもろもろもあるからまぶしさを感じて、せっかくの恋の始まり話をスルーしてしまったんじゃないか。
相手が話したいことを聞く、というコミュニケーション上の反省だけじゃなくって、せっかくのキラキラした話、やっぱり聞きたかったなぁ……。
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