短歌に感動できなくなってきてしまった――たとへば君
オランウータン日誌です、こんにちは。
たとえへば君 ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
河野裕子
毎年、この季節になると思い出す歌だ。
恋愛の心情を、「ガサッと落ち葉すくふ」という、おおよそ恋愛とは離れた動作と音に重ねて詠んでいて新鮮で、しかも、相手への思いの強さがストレートに伝わる名歌だ。a音の母音が多く使われていて、実は技巧的にも裏打ちされて、愛誦性に富んでいる。
こうして、毎年思い出すのだから、僕はやっぱりこの歌が大好きなのだけど、でも、「この歌に感動したという記憶」があるだけで、今こうしてこの歌を読んでみても、当時と同じようには感動できなくって、自分がこの歌を求めていないことばかりを感じる。
俵万智は、寺山修二や春日井健を例に挙げながら、どんなに素晴らしい歌人でも、長く歌を作り続けることは難しいということを指摘していた。歌を作る経験を重ねるうちに、自分の激しい思いをすんなりと表現できる技術は上がっていくが、その半面で、技巧的に生み出されただけの、思いの強さに支えられていない歌になってしまいがちである……。
かつて、短歌に感動していた頃の僕は、まさに短歌に込められた思いの強さに触れるのが好きだったのだけど、今は、強い思いが31文字に結晶化したような作品よりも、より、生活に根差した芸術にふれたいと思っている。
何度も繰り返し読んで河野の歌に飽きたから、というわけではない。優れた歌であることは感じる。そうではなくって、僕の感性が、河野の歌の持っている強くストレートな思いに追いつけなくなっているんじゃないか……。年々、そんな思いは深くなっている。
以上、オランウータン日誌がお届けしました。
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